植物を室内に取り入れることによって生まれる代表的な効果を、概ねご理解いただけたかと思います。
しかし、実は本題はここからです。『オフィスの中で起こっていること』で取り上げました新建材やOA機器、壁紙に使われる接着剤などから発生する有害物質の数々をはじめ、室内の空気汚染を、植物の力でどこまで緩和することができるのか…。
最も気になる植物の持つ有害物質の除去・空気浄化の力について、その是非を検証していきたいと思います。
そもそも、観葉植物と室内の有害物質の除去・空気浄化効果との関係が再認識されるきっかけとなったのは、遠い空の彼方に向かう宇宙船の中のことでした。
1989年、NASA(米航空宇宙局)が発表したレポートの中で、鉢植え植物は、室内の汚染物質の除去にかなり重要な働きをすると言うことがはじめて報告されました。
それまでは、宇宙船内の空気汚染をどのように解決するかについて、その濃度を薄める“換気”という手段を、いかに効率よく行なうかに労力を費やしてきました。
しかしながら、宇宙船の中では“換気”が思うようにできるはずもありません。
この難題にぶつかったNASAでは、それでもこの長旅が、乗組員たちに快適で、本来の目的を遂行するに足る良質の船内環境のもと実現できるよう、また将来、宇宙空間で生活ができる可能性を夢見て、この研究を続けました。
そして、彼ら乗組員たちの生命維持システムの開発途中、偶然、鉢植え植物の持つ有害物質の除去・空気浄化効果に、その可能性を見出しました。
乗組員たちの“いのち”を守るための研究のプロセスにおいてです。
このことを機会に、観葉植物(鉢植え植物)について、様々な分野での研究がはじまることになりましたが、実はこの観葉植物と有害物質の除去・空気浄化効果との関係には、現実、耳にする声に、多くの思い違いもあります。
例えばこんな風に…。
「植物に空気浄化能力があるのなら、観葉植物にこだわらず、花(切り花)をたくさん飾った方が、邪魔にもならず、喜ばれる。」
「室内に置くのだから、ハイドロカルチャーに植え込んだ植物の方が軽いし、清潔でいい。」
「枯らしてしまうと嫌なので、空気浄化なら光触媒の観葉植物(造花)で充分。」
例えのような植物でも、第二章で紹介いたしました様々な効果(心理的効果・生理的効果等)なら、ある程度、期待できる可能性はあります。
しかし、残念ながら有害物質の除去・空気浄化という点においては、実のところ、上記のような例は、ほとんど効果がないと言ってよいでしょう。
それでは、現時点での研究からは、いったいどういう状態の観葉植物なら、その効果が期待できるとされているのでしょうか?
結論から先に申し上げます。
目的が有害物質の除去・空気浄化となると、「植物が育っている土」がないと、その働きに多くの期待は寄せられないのです。
つまり、植物の葉や根は確かに前出の有害物質を吸収し、きれいな空気を送り出してくれますが、実際は、その土から、より多くの有害物質を吸収しており、正確に言うと、土中の“有用微生物”こそが、本当の有害物質除去の“パイオニア”なのです。右のグラフを見て下さい。
これは、代表的な有害物質ホルムアルデヒドが、3種類の室内環境の中、48時間でどのくらい減少していくかを実験し、その結果をグラフにしたものです。
3種類の室内環境とは、
1)の何も置かない環境では、空気中の分解・意図的でない換気等による自然減少が若干見られますが、2日経っても、ほぼ高濃度のままであることがわかります。
2)の有用微生物が存在する土は、最近まで植物を育てていた土を表しますので、3)の、実際植物が植わっている鉢を置いた状態ほどではありませんが、かなりの浄化効果が見られます。
換言いたしますと、2)の環境で残ったホルムアルデヒドから、3)の環境で残ったホルムアルデヒドを差し引いた量が、葉や根による吸収効果であると考えられ、空気浄化の働きは、やはり有用微生物が主であると言う見方ができます。
では一体、土の中の有用微生物とは、どんな働きをしているのでしょう。
ここで言う有用微生物とは、自然界にある乳酸菌、酵母菌、光合成細菌などを培養して共生させた善玉菌で、EM菌、BM菌等と呼ばれ、現在では植物生産農家などで、広く用いられています。
これらの菌は、効率的に汚染物質を除去していくだけではなく、驚くことに汚染物質にさらされれば、さらされるほど、それに適応して数が増え、有害物質の除去率も飛躍的に増加させる力を持っています。
さらに、結果として、除去されたかのように見えるこのホルムアルデヒドなどの汚染物質は、実はこの有用微生物が生物分解し、植物がその生育のために利用できる物質にまで変えてしまいます。
つまり、除去されたのではなく、有用微生物が汚染物質を植物の栄養になる物質に、“リサイクル”してしまったのです。
そこで、簡単にこれまで記述したことを振り返ってみたいと思います。
第一章では、室内環境に関わる比較的馴染のある言葉して、「マイナスイオン」と「シックビル症候群」を取り上げ、オフィス内の環境改善の必要性を一考していただく足がかりになればと、時事も含め解説させていただきました。
続いて『観葉植物が持つ様々な効果』では、身近に感じていただける観葉植物の具体的な心理的・生理的効果を列挙させていただき、箇条書きにして整理しました。
そして、『誰も言わなかった観葉植物のホントの効果効用』ではいよいよ本題であるオフィスにおける有害物質の除去と空気浄化について、土に植えられた観葉植物が、どのような有用性を持っているかを客観的に見てきました。
そこで、このまとめの項では、植物に携わる者から見た、植物との付き合い方を、誰もこれまで表現しなかった表現方法で、記述させていただきたいと思います。
ところで、先ほどから引き合いに出している有用微生物は、植物が葉や根から吸収した有害物質をもエサにしています。
そして、植物もまた、有用微生物が作り出した物質から、自身の成長を助ける栄養を補充しています。
土とそこに住む有用微生物だけでも、光合成を行う過程で、取り入れた汚染物質を土中に送り込む植物だけでも、本当の意味の浄化は成り立たちません。
このことは、いったいどう表現すべきでしょうか?
私たちは、有用微生物と植物とは、他ならぬ“共生”の関係を図っていると考えます。
“共生”
大自然の中で何万年も、何億年も繰り返されてきた、食物連鎖を据え付けたこの“共生”の関係を、オフィスに取り込むことが、空気浄化の本当の意味だと私たちは考えます。
そして、これだけ科学が発達した現代でも、このような身近な環境問題を、結局、植物に緩和してもらうことが最も有効である現実を考える時、私たち人間も、やはり自然の営みや植物が存在しない状態では、生きづらいことを改めて考えさせられます。
自然界で営まれてきたこの創大な生態系を、隔離された室内で、精神面をも含む、効用に変えて行こうという試みは、まだまだはじまったばかりです。
そのパートナーのひとつとして、白羽の矢をたてられた観葉植物たちは、今後どこまで、私達の期待に応えてくれるでしょうか。
そして、こちらから“共生”を願いでた同じ生き物として、彼ら彼女らの気持ちに、私たち人間が、今後どれだけ応えることができるようになるでしょう。
エコロジーというより、自然にとって、地球にとって、人間だけを中心に据えた考え方に基づくエコノミックな環境改善は、消費社会と、どこかで手を切れないまま進められていく気がしてなりません。
いずれにしても、私たち人間が、まず、自然や植物に生かされているという共生思想を醸成させなければ、常に新しい問題に直面し続け、同じ失態を何度も繰り返すことになるのではないでしょうか。
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